あるアパートの大家さんからの悲痛な依頼を受けて駆けつけた現場は、3DKの居室が完全に建設廃材で埋め尽くされた異常な空間でした。住人は以前、小規模なリフォーム業を営んでいたそうですが、経営破綻をきっかけに、自らの現場から出た産業廃棄物を自宅へと持ち込み、処理費用を浮かせるために放置し続けた結果でした。通常、賃貸物件における原状回復はクロスや床の張り替えを指しますが、このケースではまず「数トンに及ぶ産業廃棄物の撤去」という、住宅清掃の範疇を大きく超えた作業から始めなければなりませんでした。フローリングの上には廃プラスチックや断熱材の破片が直接置かれ、その重みで床材は歪み、隠れていた生ゴミからは強烈な腐敗臭が漂っていました。ここで大家さんを悩ませたのは、一廃(生活ゴミ)と産廃(事業ゴミ)が混在している場合の費用負担と法的処理です。住人は既に行方不明となっており、大家さんは排出者ではないものの、建物の維持管理責任者としてこれらを適正に処理しなければなりません。私たちは、まず産廃の品目を特定し、それぞれの処理コストを算出した上で、マニフェストを発行して適正な処理ルートを確保しました。住宅街の中での作業となるため、産廃の積み込み時には騒音や粉塵に細心の注意を払い、近隣住民の不安を払拭するための説明も行いました。最終的に全ての廃材が去った後、床には廃油のシミがこびりついており、特殊な洗浄剤を用いた除染作業を経て、ようやく大工さんの手による修繕が可能となりました。この事件は、産業廃棄物が個人の居住空間に持ち込まれた際に、どれほど多大な経済的ダメージを周囲に与えるかを如実に示しています。事業ゴミは絶対に家庭に持ち込んではならない。その原則が崩れたとき、平穏な賃貸物件は一瞬にして廃材置き場へと変貌してしまいます。私たちは原状回復のプロとして、物理的な清掃だけでなく、法的なリスクを最小限に抑え、大家さんの資産価値を回復させるための包括的な支援を完遂しました。