ゴミ屋敷の問題を治療という観点から捉えるとき、私たちは人間の脳が持つ意思決定のプロセスに注目しなければなりません。ため込み症の患者の脳を画像診断してみると、特定の情報処理経路に特異なパターンが見られることが報告されています。特に、自分自身の所有物に対して意思決定を迫られた際、感情を司る島皮質や、価値判断を行う前頭帯状回が過剰に反応することが分かっています。これは、本人にとって物を捨てるという行為が、身体の一部を切り取られるような物理的な痛みに近い感情を伴っていることを意味します。この生理的な反応を無視して「単なる掃除」を強要することは、医学的に見て非人道的ですらあります。したがって、治療の現場では、まずこの過敏な感情反応を鎮めることが優先されます。薬物療法においては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬などが効果を示す場合があり、脳内の化学物質のバランスを整えることで、過度な不安や執着を軽減させます。しかし、薬だけで全てが解決するわけではありません。認知行動療法によって、情報のカテゴリー分けや優先順位の付け方を訓練し、実行機能を補完するスキルを習得することが、長期的な再発防止には不可欠です。また、発達障害に伴う実行機能障害が背景にある場合は、日常生活をルーチン化し、視覚的なリマインダーを活用するなどの環境調整も治療の重要な一部となります。ゴミ屋敷という現象は、脳の特性と環境、そして心理的要因が複雑に絡み合った結果です。そのため、治療もまた、医学的なアプローチと心理社会的なサポートを組み合わせた多角的なものである必要があります。専門医による適切な診断と、それに基づいたオーダーメイドの治療計画こそが、ゴミに埋もれた人生を再構築するための確かな基盤となるのです。私たちは、この問題を個人の性格のせいにするのではなく、脳という臓器の機能不全として理解し、適切な医療を提供していくべきです。
脳の機能とゴミ屋敷の治療を考える専門的視点