特殊清掃の現場で数え切れないほどのゴミ屋敷と向き合ってきた私が、住人たちの姿を通して確信しているのは、捨てられない理由は決して「物への愛」ではなく、「変化への恐怖」であるということです。ゴミ屋敷の住人の多くは、現在の悲惨な状況を決して肯定しているわけではありません。むしろ、人一倍現状を恥じ、苦しんでいます。それにもかかわらず手が動かないのは、物を捨てるという行為が、積み上げてきた自分自身の時間を否定し、未知の新しい自分に生まれ変わるという、耐え難いほどの変化を強いるからです。ゴミの山は、住人にとって不快でありながらも、同時に「慣れ親しんだ停滞」という安らぎを与えてくれます。外の世界で何があろうとも、部屋に帰れば変わらないゴミの山が自分を包んでくれる。この歪んだ安心感から抜け出すことは、裸で荒野に放り出されるような心細さを伴うのです。清掃作業中に、私たちが何気なく手に取った古いチラシや空き箱に対して、住人が激しく取り乱す場面を何度も目にしました。それは、その紙切れ一枚が、彼らにとって過去の特定の瞬間を繋ぎ止めるための命綱となっているからです。彼らは、過去を捨てることで、自分の未来までもが消えてしまうのではないかという、根源的な不安を抱えています。私たちの役割は、単にゴミを取り除くことではなく、彼らが「過去を手放しても、あなたの価値は変わらない」という安心感を持てるように対話を重ねることです。清掃が進むにつれて、徐々に床が見え、光が差し込むようになると、住人の表情には恐怖から驚き、そして安堵へと変化が現れます。捨てられない呪縛は、他者との温かな関わりの中で、少しずつ溶かしていくことができるのです。物理的な壁を取り除いた後に残る、清々しい空気と新しい空間。それを一度でも体感することが、変化を恐れる心を癒やす最大の治療薬となります。私たちは、ゴミという名の過去を葬り、希望という名の新しい時間を依頼者に手渡すために、今日も防護服を纏い現場へと向かいます。