悪臭、害虫、火災の危険。近隣のゴミ屋敷によって、平穏な生活が脅かされている時、最終手段として「訴える」という選択肢が頭をよぎるのは、当然のことかもしれません。しかし、実際に個人がゴミ屋敷の住人を訴え、法的な解決を図ることは可能なのでしょうか。結論から言えば、法的に訴えること自体は可能です。ただし、そのためにはいくつかの高いハードルを越えなければなりません。個人がゴミ屋敷の住人を訴える場合、その法的根拠となるのは、主に民法上の「不法行為」に基づく損害賠償請求や、所有権に基づく「妨害排除請求」です。妨害排除請求とは、「ゴミを撤去せよ」と求める訴えのことです。これらの訴えが認められるためには、ゴミ屋敷によって自分が受けている被害が、社会通念上、我慢の限度(受忍限度)を超えていることを、原告側が客観的な証拠をもって証明する必要があります。例えば、専門業者に依頼して悪臭の数値を測定したデータや、害虫が大量に発生していることを示す写真や動画、そして、それらの被害によって健康被害(頭痛、不眠、アレルギーなど)が生じている場合は、医師の診断書などが有効な証拠となります。しかし、裁判には多大な時間と費用、そして精神的な労力がかかります。また、たとえ勝訴判決を得たとしても、相手に支払い能力がなければ損害賠償金は回収できませんし、ゴミの撤去命令が出ても、相手がそれに従わない場合、最終的には強制執行という、さらに複雑な手続きが必要となります。したがって、個人で訴訟を起こすことは、あくまでも「最後の手段」と考えるべきです。その前に、まずは大家さんや管理会社、そして行政の担当窓口に相談し、公的な介入を促すことが、より現実的で効果的な解決への道筋となるでしょう。