ゴミ屋敷の強制撤去は本当に可能なのか?
近隣のゴミ屋敷から漂う悪臭、大量に発生する害虫、そして火災の危険性。こうした深刻な被害に悩まされる住民が最終的に望むのは、「行政によるゴミの強制撤去」ではないでしょうか。しかし、この行政代執行と呼ばれる強力な手段は、そう簡単に行使されるものではありません。その背景には、個人の財産権を保護する法律の大きな壁が存在します。日本の憲法では、個人の財産権は手厚く保障されています。たとえそれが他人から見て「ゴミ」であっても、法律上は所有者の「財産」と見なされるため、本人の同意なく行政が勝手に処分することは、原則としてできないのです。これが、ゴミ屋敷問題の解決を非常に困難にしている根本的な理由です。では、どのような場合に強制撤去が可能になるのでしょうか。その法的根拠となるのが、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」や、近年多くの自治体で制定されている、いわゆる「ゴミ屋敷条例」です。これらの法律や条例に基づき、行政はまず、ゴミ屋敷の住人に対して、清掃や改善を求める「助言」や「指導」を行います。これに従わない場合は、より強い措置である「勧告」、さらに「命令」へと段階的に手続きを進めていきます。そして、この最終的な命令にも従わず、かつ、周辺住民の生命や身体、財産に重大な危険が差し迫っていると判断された場合にのみ、最後の手段として「行政代執行」による強制撤去が行われるのです。このプロセスは、非常に時間がかかり、行政側にとっても慎重な判断が求められます。したがって、「行政に言えばすぐに片付けてくれる」という考えは、残念ながら現実的ではありません。強制撤去は、あくまでも例外中の例外であり、最終手段であるということを理解しておく必要があります。