ゴミ屋敷問題は単なる片付けられない問題として片付けられがちですが、その根底にはセルフネグレクトという深刻な精神状態が隠されているケースが少なくありません。セルフネグレクトとは、自分自身の健康や生活環境に対し無関心になり、結果として身の回りの世話を怠ってしまう状態を指します。これは、単に怠けているというよりも、多くの場合、精神的な苦痛や孤立感、過去のトラウマなどが複雑に絡み合って生じるものです。ゴミ屋敷の住人がまさにそうであるように、周囲からの援助を拒否し、さらには自分自身の状態を認識できない、あるいは認識していても行動に移せないという状況に陥ることが特徴です。このような状況は、衛生状態の悪化だけでなく、火災や病気といった身体的な危険を増大させ、社会的な孤立を深めることにも繋がります。外からは理解しがたいその行動は、当事者にとっては唯一の防衛手段であったり、あるいは全てを諦めた結果であったりするのです。セルフネグレクトが進行するにつれて、状況は悪化の一途をたどり、最終的には自力での解決が極めて困難になります。セルフネグレクトが進行すると、日々の生活における判断力や意欲が低下します。これは、ゴミを捨てるというごく基本的な行為ですら、多大な労力を要するものに変えてしまうのです。物が捨てられない、あるいは捨て方が分からないといった初期症状は、やがて蓄積された物品で生活空間が埋め尽くされるゴミ屋敷へと変貌していきます。この過程で、他者からの視線を避け、社会との接点を失っていくことも珍しくありません。なぜなら、自分の生活環境が「異常」であることを認識しつつも、それを改善する気力がない、あるいはどうすれば良いか見当もつかないため、誰にも見られたくないという気持ちが強くなるからです。さらに、物の収集癖がある場合は、その傾向がゴミ屋敷化を加速させる要因となります。一つ一つの物には、本人にとっての記憶や感情が結びついており、それを手放すことは、過去の自分を否定する行為にも等しいと感じてしまうのです。この複雑な心理状態が、ゴミ屋敷の住人を孤立させ、問題の解決を一層困難にしていると言えるでしょう。