相続におけるゴミ屋敷問題は、近年増加傾向にある社会問題の一つです。親の住んでいた実家が、実は誰にも知られずにゴミ屋敷と化していたという現実に直面し、途方に暮れる相続人の話は珍しくありません。故人の死後、遺品整理のために実家を訪れた際に、その惨状に愕然とし、清掃費用や精神的な負担の大きさに「相続放棄」を検討するケースが多々あります。ここでは、実際のケーススタディを交えながら、ゴミ屋敷と相続放棄にまつわる問題とその対策について深く掘り下げていきます。例えば、ある相続人Aさんのケースです。Aさんは遠方に住む父親が亡くなり、実家を訪れました。父親は生前から物を溜め込む癖がありましたが、まさか家全体がゴミ屋敷状態になっているとは想像していませんでした。家の中は足の踏み場もなく、悪臭が漂い、害虫も発生している状態。清掃業者に見積もりを依頼したところ、数百万円という高額な費用が提示されました。父親には他に目立った財産がなく、預貯金もわずか。Aさんはこの清掃費用を負担することに疑問を感じ、「相続放棄」を検討し始めました。Aさんのようなケースでは、相続放棄が非常に有効な手段となり得ます。相続放棄とは、故人の残した全ての財産を一切引き継がないという法的な手続きです。ゴミ屋敷の清掃費用が負の遺産とみなされ、相続人がその負担から逃れることが可能になります。しかし、相続放棄には注意すべき点がいくつかあります。まず、相続放棄の申述期間は、原則として相続開始を知った時から3ヶ月以内です。この期間内に、ゴミ屋敷の状況を正確に把握し、清掃費用を見積もり、他の財産の有無を調査し、相続放棄をするべきか否かを判断する必要があります。3ヶ月という期間は、ゴミ屋敷の調査には短いと感じるかもしれません。もし、期間内に判断が難しい場合は、家庭裁判所に期間伸長の申し立てをすることも検討すべきです。また、相続放棄をする前に、故人の財産に手をつけてしまうと「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。例えば、ゴミ屋敷の中から貴重品を見つけて持ち出したり、故人の預貯金の一部を使用したりする行為は避けるべきです。Aさんのケースでは、弁護士に相談し、適切な手続きを経て相続放棄を行いました。これにより、Aさんは高額な清掃費用を負担することなく、精神的な負担からも解放されました。